GUERLAIN
ANGELIQUE NOIRE(2005年)
調香師:ダニエラ・アンドリエ
おすすめ度:★★★★★


画像:公式HPより
独創性がほとばしる、孤高のバニラの香り。
寒さや乾燥が強まってくると、バニラのふくよかな甘さに魅せられる。
アイスクリームのバニラと同じように、フレグランスに使われるバニラの香りもピンキリで、高品質のバニラ素材が使われているのは、なんといってもゲランだと思っている。
アンジェリークノワールは、そんなゲランのお家芸ともいえるバニラを、ふくよかな甘さとはまったく違うベクトルで創造した、新しいバニラの扉を開いた香り。
トップはフルーティ・グリーン。
スプレーするとみずみずしいペアから、カチッとしたアンジャリカシードがペアをメタリックに仕立てていく。アンジェリカのクセのあるグリーンが立てば立つほど、ペアの甘さやベルガモットのみずみずしさが引き立って、チープなフルーティとは異質な香りに向かっていく。そこにピンクペッパーが、少しパウダリーな女性らしさを添えていく。
ミドルはフローラル・グリーン。
鼻先は硬質なグリーンペアのフルーティ感をしっかり残しながら、ベルガモットにフローラル感が加わるように、ジャスミンサンバックが香ってくる。少しアロマティックでまろやかな、とてもみずみずしいジャスミンサンバックとペアのフローラルフルーティの香り。
さらに奥からハーブのようなアンジェリカをまとった、ザラッとしたバニラが香ってくる。みずみずしいフローラル、グリーン、バニラのどちらにも偏ることのない、まるでトライアングルのようなバランスの香り。
ベースはバニラ・ウッディ。
アンジェリカとセダーウッドを合わせたようなグリーンウッディに、みずみずしいジャスミンバニラが溶け込んでいくようなイメージ。少しずつ、グリーンとバニラが重なっていくことで、稀有なグリーンバニラ、甘いけど爽やかな香りが完成されていく。
やがてグリーンバニラは少しずつパウダリーになり、それらをやわらかいムスクで包み込み、最後はバニラムスクの香りでドライダウンしていく。
アンジェリカを纏ったバニラが主張するのは3~4時間くらい、そしてバニラムスクは6時間近く持続する。
爽やかなグリーンで包まれたバニラの香りで、真夏以外は使用できる。とはいえ、特に秋冬に活躍する香りだと思う。濃厚な甘さとはひと味違う、凛とした空気と調和したような、みずみずしいバニラの甘さや白さを楽しむことができる。
個人的には凍えるように寒い冬場に、アンジェリークノワールの硬いグリーンの奥から香るバニラが、とてもかっこよく感じる。爽快かつハンサムなバニラに包まれたい時におすすめしたい香りだ。
全体的には、ハーバルグリーンなアンジェリカとバニラを調和させた独創的な香り。その狭間にジャスミンサンバックが入り込むことで、調和ではなく融合させた、とにかく素晴らしい香り。香調もフレッシュオリエンタルとされていて、とても珍しい。
アンジェリカには不老長寿の万能薬としての効能があり、「大天使の花」「天使のハーブ」「精霊の宿る根」と呼ばれるとのこと。
アンジェリークノワールのバニラは、同じラール エ ラ マティエールのドゥーブルヴァニーユのバニラとは違った、よりビーンズ感が強い素材だと思われる。
この決して相性が良いとは言いがたいアンジェリカとバニラを組み合わせた調香師のダニエラ・アンドリエのインスピレーションは凄い。そして、アンジェリカの花言葉はまさしく「インスピレーション」だ。
ゲランでは、2005年頃から2008年まで専属調香師以外の作品が多く、このアンジェリーク ノワールも良い意味でゲランらしくない香りで、こういう独創性あふれる香りはもう出てこないのではと感じてしまう。