フレグランスアッセンブル

フレグランスの香りの変化を解析するサイト

キリアン:ア キス フロム ア ローズ

KILIAN

A KISS FROM A ROSE(2021年)

調香師:アルベルト・モリヤス

おすすめ度:★★★☆☆

 

f:id:captain_dora:20220411173723j:plain

画像:公式HPより

 

ア キス フロム ア ローズは2021年に新宿伊勢丹で限定販売された香り。

「薔薇からのキス」というネーミングと、ローリング イン ラブと同じルージュのような真っ赤なボトル。果たしてどんな香りだろうか?と妄想が膨らむ。

 

結論から述べると、ア キス フロム ア ローズは、そのネーミングやボトルとは裏腹に、キリアンの中では嗜好とキャラクターのバランスが良く、使いやすい部類の香りではと思う。

 

トップはグリーン・フルーティ。

スプレーした瞬間、鋭いグリーンが鼻を突く。数秒遅れて、みずみずしいカシスや、こちらも鋭いレッドローズが絡み合うことで、グリーンアップルやトマトのようにも感じられる香り。そんなグリーンの鋭さを、ムスクがいなしているようなオープニング。

 

ミドルはグリーン・フローラル。

鼻先は青っぽいトマトのような香りを立たせながら、トップから顔を出していた、華やかさと鋭さを併せ持った真っ赤なローズが広がっていく。緑色の硬さや、赤い生っぽさを帯びた、棘付きローズの香り。

その青さよりも、ローズの華やかな甘さが前に出てくることで、さっきまでの青っぽさが逆にローズを若々しく引き締めているような香りに変化していく。そして、奥からジャスミンサンバックが、ローズにみずみずしい甘さを与え、とても美しく着飾っている。

 

ベースはフローラル・ムスク。

やがて、やや金属質なグリーンと一体となったローズに、柔らかいムスクやウッディが調和し、ローズの鋭さを和らげながらも、最後まで硬いローズの残像を残したままドライダウンしていく。


最初の2時間は棘のような硬いグリーンを含んだみずみずしいローズの香り。その硬いローズをムスクやウッディに包まれるように、全体では5時間くらい持続する。

 

赤と緑が交錯する、はっきしした色彩のローズの香り。ローズ自身も鋭く、甘さがない。そのローズにフレッシュなグリーンやみずみずしいジャスミンを合わせた、春から夏にかけて似合うと香りだと感じる。

 

ローズそのものは、スパイシーで華やかさを引き出したり、パチョリで深みを与えたり、甘さで官能的に演出することをしていない、とてもフレッシュなローズな表情。

そのローズにグリーンで輪郭を描くことで、棘のようなキャラクターを与えると同時に、一方では、カシスやジャスミンでみずみずしい透明感を加え、ムスクで上品に仕上げているため、パッとした印象は、使いやすいローズの香りだと思う。

 

でも、当然もちろんキリアンらしさは散りばめられていると感じる。

このビロードのような艶っぽいバラの香りから、ほんのりと血のような生臭さや金属に匂いが感じられる。濁っていない新鮮な血の匂い。

 

「薔薇からのキス」は棘に覆われた血のローズの香り。

目を瞠るような艶やかな紅い唇に、視線が止まる。吸い込まれそうになる。その唇に近づいてみると、なぜか背筋に緊張感が走る。でも思い切ってキスをしてみる。警戒心を解いていないのか、硬い唇。そして舌をを入れた瞬間、血の匂い?がする。やはりやめておこうと心にブレーキがかかる。

美しさと危険、華やかさと無垢を孕んだ、後に引くようなキスの香り。

 

そして、ア キス フロム ア ローズから、ローリング イン ラブまでたどり着くには、あと1~2回のプロセスが必要かもしれない。