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メゾン フランシス クルジャン:バカラルージュ 540

MAISON FRAICIS KURKDJIAN

BACCARAT ROUGE 540(2014年)

調香師:フランシス・クルジャン

おすすめ度:★★★★☆

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画像出典:公式HP

 

バカラルージュ540は、クリスタルの「メゾン バカラ」のブランド生誕250周年を記念してクリエーションされた香り。

バカラグラスの、透明なクリスタルに24金の金粉を混ぜ合わせ、540度の高温で少しずつ溶解することによって生み出される、独特の深みのあるスカーレットレッド。バカラルージュの名はそこから採られたとのこと。

そしてバカラグラスの人工的な輝きと同じく、バカラルージュもクリスタルがルージュのような赤みを帯びていく姿を、甘いアンバーで表現した、人工的な美しさが際立つ香りとなっている。

 

トップはスパイシー・フローラル。

スプレーした瞬間、爽やかなスイートオレンジがフワッと香るものの、華やかなサフランの鋭いスパイシーと、官能的なジャスミンの甘さ。奥からは焦げたカラメルのような重厚な甘さも立ち上る。


ミドルはアンバー・ウッディ。

鼻先では、ジャスミンの酸味をまとったサフランを香らせつつ、焦げたカラメルの甘さに包まれたアンバーの厚みが増していく。このアンバーを焦がした甘さが、いわゆるグルマン系とは異なる、独特なキャラクターを創り出している。底からは、アンバーグリスの酸味や塩味、針葉樹のような硬さもじんわりと漂うため、アンバーの甘さが抜け、甘いけれども甘さに沈んでいかない。


ベースはウッディ・アンバー。

カラメルアンバーの甘さをしっかり残しながら、少しずつジャスミンのコクや酸味、アンバーグリスや柔らかな酸味、さらには鉄のような硬い酸味が香る。この様々な酸味がカラメルアンバーの甘さより前に出ている点がユニークだと思う。そして、カラメルの甘さを残した力強いアンバーと、ドライなセダーウッドが重なりながらドライダウンしていく。

 

甘いアンバーを中心にしたシングルノートに近い香り。華やかなサフランやジャスミンに包まれたアンバーが2時間程度、そこからウッディの深みを加えながら、酸味に包まれたアンバーは8時間くらい持続する。

 

グルマンではなく、アンバーを焦がしたような甘さが甘ったるくなく、真夏以外は使えると思う。とはいえ冬を中心に、春や秋でも無性にこのバカラルージュの香ばしいアンバーに包まれたくなる。

 

数多く存在する甘さの強い香り。以前は、甘さの強い香りが得意ではなかった。このバカラルージュを初めてかいだ時も、その濃厚なカラメル甘さに、これは無理!と感じてしまった。やがて嗜好の幅が広がり、いわゆるグルマン系が好きになったある日、バカラルージュを使ってみると、これはグルマンの香りではなかったことにようやく気づいた。

 

バカラルージュは、アンバーやウッディを焦がすことで、カラメル色の輝きと、香ばしい甘さを帯びた香り。グルマンの深い甘みではなく、また適度の酸味を効かせることで、琥珀色の深みある甘さが、硬さを伴ってフワッと広がっていく。肌に乗せると、金粉が体温で溶解されたような甘さと輝きを放ち、その人工的な美しさに酔いしれる。一度でもその輝きを味わうと、新世界のアンバーの魅力に取り憑かれてしまうような、中毒性の高い香り。

フランシス・クルジャン自身もアンバーの魅力の虜になってしまったのか、バカラルージュ以降、アンバーを効かせ過ぎた香りが多いのではと感じている。