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キリアン:ストレート トゥ ヘブン ホワイト クリスタル

KILIAN

STRAIGHT TO HEAVEN WHITE CRISTAL(2007年)

調香師:シドニー・ランセンサー

おすすめ度:★★★☆☆

 

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ストレートヘブンは、ルーヴルノワール(愛が描く甘い誘惑の世界)コレクションからの作品で、ラム酒にインスパイアされ、カリブ諸島の熱気をブレンドしたような香りとしている。
キリアンでも特に人気のある香りにもかかわらず、とても難解な香りだと感じている。
あこがれるけれどなかなか手が出せないとか、敷居が高いというわけでなく、フレグランスとして求める方向性が違うといった表現が正しいのかもしれない。
 
トップはスパイシー・ラム。
スプレーすると、墨汁のようなツンとした硬いハーバル感と、ナツメグの鋭い冷涼感。それらの鋭さをラムが柔らかくまろやかにまとめることで、クールな雰囲気を持った芳醇なラムの香りに。
 
ミドルはウッディ。
ナツメグの冷たさをしっかり残しながら、ドライフルーツの甘さ、さらにはパチョリのアロマティック感が増すことで、コニャックを思わせる酒の感じがはっきりしてくる。そして、トップでかいだあの墨っぽい香りはパチョリだったと気づく。
一方で、ナツメグにもメロンに似たみずみずしさが加わることで、パチョリにもアロマティック感がクールに締まっていく。そんな甘さや冷たさがパチョリのウッディ部分に沁み込んでいくような香り。
 
ベースはウッディ・アンバー。
フルーティな甘さや、パチョリのアロマティック感が収まってくると、パチョリのウッディ部分にセダーウッドの埃っぽい重さが重なり、一気に樽のような香ばしいウッディ感が強くなってくる。まるでコニャックの樽の貯蔵庫のような、樽そのもの匂い、樽からうっすら漂う甘さ、室内のひんやりとした空気に舞う埃などがイメージできる。そんな静かなウッディの深みに、アンバーのやや動物的な温もりが添えられた、とても男っぽい香り。
この暗いウッディに、ムスクの柔らかさやバニラの甘さをほんのり加えることで、なんともまあ男らしい色気のある香りに仕上がっていく。依然として、マニマリックな香りもしっかり感じ取れるため、好みが分かれる香りだとは思う。
最後は急にクライマックスを迎え、香りが収れんしていく。男っぽい残り香とともに。
 
香調はウッディスパイシー。アロマティックなパチョリ、クールなスパイシーなど、ミドル中心の構成のため、持続は5時間ほど。コニャックやバニラの甘さは、樽のようなウッディの色付け程度で、あまり残らない。

 

そして、肌寒い秋の夜や冬に似合う香り。冷たいスパイシーが凛とした空気に溶け込みながら、甘さを浸した暗いウッディが体臭のようにそっと香る。

 

全体的な骨格は、野性味のあるセダーウッドに、ラムやフルーティを漬け込み、パチョリやナツメグでコーティングしたような香り。暗いウッディから、獣のような野性味と、クールな静けさ、色気のある甘さが滲み出るような男の匂い。

 
エンジェルズシェアの原風景こそ、ストレートトゥヘブンに他ならない。「天使の分け前」の話は、店頭でこのストレートトゥヘブンの説明を受ける時に必ずされた。
 
エンジェルズシェアが、コニャックそのものを熟成させていくことで、甘さが深まり、琥珀色に輝く姿をイメージした香りだとすれば、このストレートトゥヘブンは、コニャックを熟成させていく樽の香り。樽にはコニャックだけでなく、空気や埃も沁み込んでいる。だからストレートトゥヘブンには、エンジェルズシェアの香りごと包み込んでいくような包容力がある。「天使の分け前」は神に捧げられたのではなく、樽に沁み込んでいた。つまり樽の香りこそが「天使の分け前」ではと思えてくる。
 
ストレートトゥヘブンはキリアンという人間の精神が宿ったような、とにかくかっこいい香りだと思う。
爽やかさ、逞しさ、力強さ、色気などのスペックをまとうのではなく、冷静、情熱、知性、包容力などの男らしさそのものをまとうような香り。ファッションではなく、アイデンティティや内面を磨くように。
だからこそ、この香りをまとうのはとても難しい。どこかしっくり来ない。はっきり言えば似合っていない。現時点では、フレグランスに哲学や、ましてや天国に行くことなど求めていないかもしれない。