FREDERIC MALLE
MUSC RAVAGEUR(2000年)
調香師:モーリス・ルーセル
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HPより
フレデリック・マルの不動のセンター、ムスクラバジュール。
ブランド創設の2000年に発売された作品。今から20年以上前に、おそらく当時の流行とはかけ離れたこの香りを提示してきた、フレデリック・マルのニッチフレグランスへの気概に改めて驚かされる。
そしてムスクラバジュールは、フレデリック・マルのコンセプト「エディション ドゥパルファム(香りの出版社)」を地で行ったような作品で、依頼主のオーダー、トレンド、時間、原料、コストなどのあらゆる制約を取っ払い、調香師が至高の嗅覚の世界を目指したからこそ生まれたような香りだと思う。
ムスクラバジュールについて、調香したモーリス・ルーセルの「私にとって、すべての香水は欲望の讃美歌でなければならない」という言葉を体現した香り。そして、ラバジュール(破滅)という名前に恥じない、野蛮で好き嫌いがはっきり分かれる香り。
しかし、個人的にニッチ系には、万人受けする香りではなく、これくらいキャラクターの立った香りを求めたいと思わせるような作品。
トップはハーバル・シトラス。
スプレーすると、爽やかなラベンダーとベルガモットが香るため、どの角度から見ても、クラシカルなメンズフレグランス100%の香り。奥からうっすらと香るシナモンのクセのある甘さが、少しだけ女性的なスパイスとして添えたようなオープニング。
ミドルはスパイシー・バルサミック。
そのシナモンがどんどん強くなり、さらにクローブの温かみのある辛さも加えた、かなりクセの強いスパイシーの香り。そして奥から、ドライなガイアックウッドが香ってくる。この組み合わせは少しタバコのような雰囲気がある。そのタバコノートに、ビーンズ感の強いバニラがフワッと甘さを添える。
ベースはバルサミック・アンバー。
タバコのようなウッディの残香と、甘さを増したバニラやトンカビーンを、アンバームスクで強引にまとめたような印象。この焦げたアンバームスクがまさに「麝香」のような香りで、薄いブラウン色のマニマリックなムスクの香りとしてまとまっていく。
最後は焦げたようなまろやかなバニラを効かせたオリエンタルアンバーの甘さを漂わせながらドライダウンしていく。
メンズ的なハーバルシトラスから、甘辛いスパイシーが2時間くらい弾け、そこからブラウン色の焦げたムスクが4~5時間、最後の焦げたオリエンタルアンバーは8時間以上持続する。
焦げた甘さ、温もりのあるムスクがこれでもかといわんばかりに主張する、秋冬に似合う香り。肌寒い夜、このムスクラバジュールをスプレーすると、まるで人肌に包まれたような安心感に浸れる香り。
実際に肌に合わせると、カシュメランの焦げたウッディムスクと、バニラが強烈に香る。タバコバニラに似通った雰囲気がある。
しかし、タバコバニラよりももっと野生的な温もりが強い。
タバコバニラの方がタバコの香りがもっとビターで暗い。そこにまろやかなフルーティな甘さも加わり、洋酒のような色気があり、ダンディな印象だ。
一方、ムスクラバジュールはアニマリックで焦げたような甘さのため、かなり野蛮に映る。ダンディではなく肉体的な香りだ。
では、タバコバニラの方が良い香りというと、そんなことはなく、タバコバニラの方がどこか気障で敷居が高いようにも感じる。憧れの香りではあるけれど、使用頻度は少ない。
逆に、このムスク ラバジュールの方が、気取っていない分、使いやすいとも思う。
例の「世界香水ガイド」によると、フランス語のラバジュールには、抗しがたい男性の美しさに心を奪われるという意味が含まれているらしい。
でも、ムスクラバジュールのイメージは、クールでスマートな美しい攻め方ではなく、もっともっとストレートで強引で肉食系だ。
そう、自分の、そして相手の欲望のスイッチを押すことで、理性という境界線を越えてしまいそうな香り、というよりも匂い。