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ジャン・パトゥ:ジョイ

JEAN PATOU

JOY PARFUM(1930年) ※廃番

調香師:アンリ・アルメラス

おすすめ度:★★★★★

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画像:FRAGRANTICAより

 

かつて、ジャンパトゥというブランドから「JOY」という名の名香があった。

 

そしてジョイは正真正銘、真のプレステージなフレグランスだと思う。

あえて「真」にこだわるのは、ジョイはストーリーでもなく、ボトルでもなく、調香でもなく、ましてやプロモーションではなく、フレグランスでもっとも大切な素材そのものに徹底的に重きを置いた香りだから。

ジョイはジャスミンやローズなどがふんだんに使用された、世界でも最も製造費のかかる香水の1つといわれていた。

オートクチュールデザインで名声を博したジャンパトゥ。でも彼の本当の伝説は、贅沢な素材をふんだんに使用し、完璧を追求する姿勢から生まれたフレグランスにあるとされる。なかでも1930年に発売されたジョイは、世界恐慌の憂鬱のなか、暗い時代に生きることの純粋な喜びのシンボルとして大成功を収め、「伝説の香水」といわれるに至った。

 

そんな歴史的名香を久しぶりにスプレーしてみると、

トップはフローラル。

スプレーした瞬間、いきなりハンパない濃さのフローラルが押し寄せる。

まず最初に鼻を刺激するのはチュベローズ。ジャスミンからオレンジフラワーの華やかさをさらに強くし、フルーティな甘さを合わせたようなとてもナチュラルなチュベローズの香り。そのチュベローズにイランイランが女性らしさを添えることで、みずみずしくも華やかな花々の香りがパッと拡散してくる。

 

ミドルはフローラル。

イランイランのみずみずしさが収まってくると、艶のあるローズが香る。うっとりするくらいの華やかなローズの香り。そこからローズの甘さと酸味が出てくると同時に、奥からは強いジャスミンが香る。スパイシーやインドールを効かせた、アニマル調の強いジャスミンではあるが、ローズの甘さや酸味と重なることで、豊潤なフローラルとして見事に変換され、素晴らしいジャスミンローズを堪能できる。

 

ベースはウッディ・ムスキー。

ミドルのローズやジャスミンが乾いていきながらも、サンダルウッドとムスクが、その乾いたフローラルをパウダリーな石鹸調がやさしく包み込む。最後は上品なソープ調ジャスミンを香らせながらドライダウンしていく。

 

ローズ、そしてジャスミンがこれでもかとばかりに香り立つため、春、そして秋に似合う香りだと思う。

 

ジョイは高品質な天然香料を惜しげもなく配合しているといわれ、1オンス(30g弱)に約10,600個のジャスミンと、28ダース(336個)のローズドメが使用されている。実際にこの香りに触れてみると、ローズとジャスミンのフローラル感に圧倒される。

特に最近の香りに慣れてしまうと、ここまで強いフローラルは、逆にもはや香水とは映らないかもしれない。

 

天然香料はそのまま使うと、ナチュラルな深みなど良い部分の半面、残香のまとまりが悪いなど弊害も多い。ところがジョイは、ローズやジャスミンのクセを、そのローズとジャスミンを絶妙なバランスで合わせることで、見えにくくしている。伝説の香水と呼ばれる所以が、贅沢な素材ばかりではないことが分かる。

 

実際にジョイを肌に乗せていると、トップこそその強いフローラル香が部屋に充満するが、ミドル以降はピタッと肌に馴染んでしまったかのように、それほど拡散しない。下半身に乗せてみると、ほんのり上品なフローラルの香りがほぼ1日香ってくれる。

 

クラシカルなフローラルの香りといえば、やはりシャネルのN°5を思い浮かぶ。N°5はフローラルに加えてパウダリーや甘さや深みが強く、きちっとメイクアップしたような香りで、上品な色っぽさ、包容力や自信など、女性らしさが溢れている。

一方ジョイは、上質なフローラル感のみが強く、もっともっとナチュラルメイクに近い女性をイメージしてしまう。

やはり、どちらも長きにわたって世の男性女性の心を離さない魅力的な香りであり、どちらも手元に置き続けたいフレグランスであるのは間違いない。

 

ジャンパトゥは1914年に創業され、1930年に発売されたジョイにより、パフューマリーとして一時代を築いたものの、徐々に没落していく。2001年にP&Gに、2018年にLVMHに買収された。同年、同じくLVMHのディオールがジャンパトゥ作品の商標使用権を獲得し、ディオールから「JOY」が発売されることで、ジャンパトゥのフレグランスは全品廃番となり、フレグランス界からその姿を消した。