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トバリ:スプリング スノー

TOBALI

SPRING SNOW(2018年) ※廃番

調香師:不明

おすすめ度:★★☆☆☆

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画像:公式HPより

 

2021年に幕を閉じたトバリ。残念ながらこのスピリングスノーは、後継のサウザンドカラーズに移行されることにならず、そのまま廃番になってしまった香り。
 
スプリングスノー、春の雪。
当然、三島由紀夫のあの名作が思い浮かぶ。
このスプリングスノーは「春の雪」ではなく、三島由紀夫がその美しさを称賛した歌舞伎界を代表女形の最高峰を六代目中村歌右衛門をモデルにしたフレグランスとある。
 
香りのテーマは、無数に咲き誇る<優美>な桜と、<冷静>に規則正しく舞い降りる季節外れの粉雪。それは幻想的な優美さ、静かな冷静さを持ち、性を超越して女性の美しさを見事に表現した六代目中村歌右衛門の生き様と重ねられている。
 
トップはパウダリー・スパイシー。
スプレーすると、ツーンと鼻を刺す鋭いスパイシー感と、いわゆるお白粉のようなパウダリー感。このスパイシーは何の香りだろう?と考えていると、パウダリーはほんのりピンク色に染められていて、その淡いピンク感が桜というイメージとして伝わってくるようなオープニング。
 
ミドルはウッディ。
そんな儚げなパウダリーを、柔らかいクリーミーなサンダルウッドが包み込んでいく。ザラザラしたカシュメランや、グレイ色のベチバーが深みを与えることで、サンダルウッドが少しずつ御香のような香りとして落ち着いていく。
 
ベースはウッディ・アンバー。
ウッディの深みが前に出ていくことで、サンダルウッドのもう一方の側面、クリーミーな甘さを感じ取れる。奥からはHidden Japonism 834のアニマリックな暗いウッディ感を漂わせつつ、アンブロクサンがどこかパウダリーな印象を持たせながらドライダウンしていく。
 
春に降る雪ではなく、雪のなかで咲く桜、青空ではなく曇ったような暗さが勝ったイメージで、あまり春は伝わってこない。1~2月頃に似合う香りだと思う。
 
大きく香りが変化することなく、パウダリーとクリーミー、白と黒の拮抗が5~6時間持続する。

 

白粉のようなきめ細かいパウダリー感を雪になぞらえ、クリーミーなウッディの仄かな甘さを桜の見立てた香り。後半、ベチバーの暗い印象が少し鼻に付く。おそらく暗いヒドゥンジャポニズムベースへの橋渡しとして、このグレイ色のベチバーを使用したのだろうと思われるが、このベチバーがはっきり男性を感じてしまい、女形に徹しきれていないようにも映る。トバリのコンセプトでもある、ヒドゥンジャポニズムにこだわりすぎたのかもしれない。

 

それでも前半部分の、クリーミーなサンダルウッドと、淡い桜色のパウダリーとのコントラストは、春の日に舞い降りる季節外れの雪のような幻想的なイメージを上手く表現していると感じる。
 
六代目中村歌右衛門は、性を超越した美しさで舞台に生涯を通して立ち続け、春の日に満開の桜が庭に咲き誇る中、季節はずれの粉雪が舞い散る彼の存在を象徴するような幻想的な日に、その生涯を閉じたとのこと。もしかすると華々しい舞台での姿だけでなく、彼の生き様、さらには死に様まで描いたのではと思えてくる。
 
そして次のように考えてしまう。トバリのヒドゥンジャポニズムベースは、良くも悪くも世界観が強すぎて、うまくその個性と合致する香りもあれば、スプリングスノーのように演じる役者の生身の姿が出過ぎてしまうケースもあるのだと。であれば、ヒドゥンジャポニズムはトバリという舞台を演じ切ったため、自らを引退させたのかもしれないと。