フレグランスアッセンブル

フレグランスの香りの詳細を解析するサイト

キリアン:コローニュ シールド オブ プロテクション

KILIAN

KOLOGNE ,SHIELD OF PROTECTION(2022年)

調香師:カリス・ベッカー

おすすめ度:★★★★☆

 

画像:公式HP

 

キリアンの最新作コローニュには、キリアン初のコロン作品であり、シールド オブ プロテクション(身を守る盾)という副題が添えられている。そもそも副題が付けられている作品自体が少なく、かなり久しぶりにように感じてしまう(実際は「DARK LORD - "EX TENEBRIS LUX"(2018)」以来)。

公式HPには、コロンというフレグランスのルーツに立ち返り、何年にもわたって独自のコロンを開発し、結果として自分を守る盾という新しい解釈を創り出したとしている。

そして、KILIANのCOLOGNE=「KOLOGNE」と命名してしまう、この自意識の高さがいかにもキリアンらしいと感じる(苦笑)。

それでは自分自身を守る盾の香りとは、どのような香りなのだろうか。

トップはシトラス・スパイシー。

スプレーするとフレッシュなマンダリンと、ビターオレンジの甘さ。思っていた以上にシトラスは弾けず、どちらかといえば静かなオープニングだと思う。

マンダリンはかなりグリーンが強く、そこにキリッと爽やかなローズマリーや、クミンのようなスパイシーを絡めることで、シトラスの果実味よりもグリーンメタリックな果皮感がしっかり感じられる。そしてオレンジにはシナモンを添えることで、甘さにクセを加えている。

 

ミドルはグリーン・アロマティック。

先端はマンダリンのメタリックなグリーンの果皮感を香らせながら、オレンジの甘さや、ウッディ調を帯びたペチグレンのグリーン感を、透き通るようなネロリが広げていく。そこにほんのりミントを添えることで、グリーンやオレンジの色彩を鮮やかにしているようなイメージ。

奥からは、ドライなセダーウッドの姿がはっきりと感じられるものの、セダーウッドよりも手前に、バンブーハーモニーのバンブー調に似たアロマティックグリーンが、香り全体を突き刺すようにまとめているため、グリーンやオレンジの甘さやウッディがばらけることなく、涼し気なグリーン・アロマティックの香りがしばらく続いていく。

 

ベースはウッディ・グリーン。

オレンジ果皮の甘さやミントグリーンを香らせながら、セダーウッドや、カシュメランのややスパイシーウッディ調がはっきりしてくる。

でも、それらウッディの暗さに沈んでいかずに、抜け感がある。この抜け感はなんだろうか。ムスクのような柔らかさはなく、どちらかといえばマンダリンの果皮のワタのような香りで、これがグリーンベジタブルノートの樹液アコードかもしれない。

最終的には、このビターウッディにマンダリンのグリーンの果皮を絡ませた香りと、果皮のワタのような白い甘さに淡いムスクを含ませた香りが、調和しながらドライダウンしていく。

 

持続時間は5~6時間くらいでは。こんな曖昧な表現になってしまうのは、スプレーした瞬間こそ、輪郭のはっきりした鮮やかなシトラスが水平に広がっていくものの、そのまま拡散せず、それらシトラスがグリーンやアロマティックウッディを帯びながら、肌に静かに残っていくようなイメージで、常に香りが立っているというわけではない。ウエストに乗せてみると、逆に6時間過ぎても時折フワッと香りを感じるときもある。

 

そしてこのコローニュは、あまり季節を問わない香りだと思う。夏の日中だとオレンジの甘さが鼻に付くかもしれない。夏であれば夕方以降、むしろ春や秋の方が似合うのではとも感じる。

 

いわゆるコロンの香りをイメージしていると、かなり肩透かしを食らうのではと思う。コロンらしいフレッシュな香りが広がるのではなく、シトラスやグリーンウッディのオーラに包まれる感覚に近いため、最初「こんな香り、コロンじゃない」とあまりピンとこなかった。

 

ところが使い込むうちに、このコローニュの個性が理解できてくる。

香りの構成は、グリーンマンダリンを中心にかなり複雑で、シトラスのフレッシュ感、ナチュラルな甘さ、ローズマリーの硬さ、そしてメンズらしい力強さなどが点在し、そのいずれかが飛び出すことでキャラクターを形成することを避け、常にまとまっているような印象だ。それは何かに守られている安心感であり、「盾」という表現に相応しい。

 

本来、フレグランスを使う目的は、爽やかな気分やポジティブな気持ちにさせたり、華やかさや力強さを演出したり、ラグジュアリーに着飾ったりなど、その多くはどちらかといえば「武器」だ。

元々、コロンは万能薬のように使われていた。キリアンはコロンのルーツに立ち返り、コロンに新たに「盾」という役割を持たせ、再定義したのではと思っている。

 

見渡せば、国家の分断、ウイルスの脅威、戦争のリスク、そしてテロの恐怖など心を脅かす情報が溢れている。真っ先に身を守るべき「心」にはマスクをすることはできず、いつでも無防備に晒されている。

そんなとき、このコローニュ シールド オブ プロテクションは、無意識の不安を安心感で守ってくれるような存在になるのかもしれない。