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キャロン:ルァー バガボンド

CARON

L'HEURE VAGABONDE EDP(2022年)

調香師:ジャン・ジャック

おすすめ度:★★★☆☆

画像:公式HP

キャロンは1904年にパリで設立された歴史のあるフレグランスメゾン。そして2018年、カトレア・ファイナンスに買い取られると、CEOアリアン・ド・ロスチャイルドと調香師ジャン・ジャックによって新たに生まれ変わった。

このルァーバガボンド(「さすらいの時間」の意)は、コロン・スブリーム コレクションからの1品で、爽やかなライムアコードと、リッチなバルカン半島のタバコ・アブソリュートを組み合わせたコロンとのこと。

 

トップはシトラス・スパイシー。

スプレーすると、グレープフルーツの爽やかな苦みと、煮詰めたようなライムのビターな刺激。その刺激をCO2抽出のジンジャーの透き通るような辛みが広げていく。そんなシトラスジンジャーを、ベルガモットのみずみずしい酸味が寄り添っているようなオープニング。

 

ミドルはスパイシー・フローラル。

ジンジャーのクリアな辛みと明るいネロリが重なり、ライムのビターな印象よりも前に出てくる。このジンジャーネロリに、はちみつレモンのような甘酸っぱさがほどよく添えられ、とても爽やかだ。

ジンジャーに対して、ライムのビター感は徐々に沈んでいき、ベルガモットやベチバーと合わさり、スモーキーなティーノートやウッディとして収れんしていく。

そして、少しずつタバコノートの姿が見えてくる。

 

ベースはウッディ・アンバー。

ジンジャーの辛みを立たせながら、ウッディのスモーキー感が濃くなっていく。このあたりから、タバコノートをはっきり感じ取れるものの、ベチバーのアロマティック感や、ガイアックウッドの白っぽいウッディが、タバコを暗く沈めていかない。

やがてバルサミックな酸味(私の鼻ではラブダナムではなくオポポナックスのように感じる)を立たせながら、タバコはライムやジンジャーの刺激を静電気のように帯び、パチョリやカシュメラン、さらにほのかにハニー甘さ、最後はアンバーの柔らかさを加え、静かにドライダウンしていく。

 

持続時間は4~5時間。このコロン・スブリーム コレクションはオードトワレとオードパルファムの中間くらいの賦香率(12~18%)のため、スプレーした瞬間は、コロンのような軽やかな香りが弾け、その香りの面影を残しながら、まるで余熱のようにふんわりと漂っている作品が多い。

ルァーバガボンドも最初の30分はビターなシトラスが広がるも、シトラスが落ち着くと香りが大きく変化することなく、シトラスを絡めたジンジャーの辛みと、ビターなウッディの静けさが対照的だ。

 

ルァーバガボンドは、フレッシュでエレガントな夜のためのコロンというコンセプトの、夏の夜に似合う香りだと思う。先に述べたとおり、肌に馴染んでしまうと予想以上に香りが昇ってこないため、腕に付けた方が良いかもしれない。シトラスを楽しむとコロンではなく、シトラスを含んだジンジャーの刺激と、ビターなライムをアクセントにしたタバコやウッディの静けさを味わうような香りだと思う。

 

ちなみに公式HPをみると、トップ・ミドル・ベースではなく、ライムサイドとタバコサイドに分かれていて、納得する。

ライムとタバコ、2つの全く異なる世界の素材が出会い。このビター味の強いライムは、爽やかな部分をジンジャーに委ね、そしてタバコやウッディと絡み合いながら沈んでいく。このライムにくるまれたタバコウッディは、若々しさを残しながらもエレガントだと思う。

 

対照的な2つの素材の運命的な出会いは、火花を散らすことなく、ライムがタバコに近づき、そのままタバコウッディの磁気のように覆っていく。それはタバコのコロン。

コロンとは思えぬほど、その立ち振舞いはエレガントでまろやか過ぎるかもしれない。もう少しパワーや個性がほしい時は、アエノータスに手を伸ばす。