フレグランスアッセンブル

フレグランスの香りの変化を解析するサイト

ルイ・ヴィトン:シティ オブ スターズ

LOUIS VUITTON

CITY OF STARS(2022年)

調香師:ジャック・キャヴァリエ

おすすめ度:★★☆☆☆

画像:公式HP

 

シティ オブ スターズは、カリフォルニアを彷彿させる「パルファン ドゥ コローニュ」の6作目にあたる。

ジャック・キャヴァリエが、夜のロサンゼルスにオマージュを捧げた、星を散りばめたように明るい街の大通りから天空に瞬く星座までをもモチーフにした香りとしている。

 

そして、シティ オブ スターズといえば、ロサンゼルスを舞台にした映画「ラ・ラ・ランド」でライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが演じた、あのシーンを思い浮かべる。

ロサンゼルス在住アーティストのアレックス・イスラエルが手がけた美しい化粧箱。

化粧箱の美しさをそのままアートにしたようなグラデーションのボトル。

街の光と夜空、情熱的な恋愛、官能的な一夜を表現した香り。

シティ オブ スターズのそのすべてが、ラ・ラ・ランドの世界観と重ねってくる。

 

トップはシトラス・フルーティ。

スプレーすると、オレンジやマンダリンの赤い果実を思わせるジューシーな甘さ、ライムやレモンのピリッとした果皮の苦み、さらにはみずみずしいベルガモットの青さ。それらカラフルなシトラスミックスに、甘いティアレフラワーを重ねることで、特にオレンジのフルーティな甘さを引き出しているようなオープニング。

 

ミドルはフローラル・アロマティック。

そんな色とりどりのシトラスたちを、ライムの苦みやオレンジの甘さを中心にまとまっていくようなイメージ(もしかすると、気候や体温によって中心となるシトラスも変化するかもしれない)。そのシトラスを立たせながら、どこか南国を想起させるティアレの明るく軽やかな香りが広がっていく。特にティアレとオレンジとの組み合わせがリゾート的でとても美しい。

奥からは、メテオールにも似たアロマティックウッディや、少しパウダリーなムスクがフワッと香ることで、さながら南国の太陽の明るさから夜の帳を降ろしていくように、徐々に深みを増していく。

 

ベースはムスキー・ウッディ。

やがて、ライムのグリーンやオレンジの甘さを輪郭に、アロマティックウッディがはっきりしてくる。

一方で、ティアレの残香とパウダリーなムスクが合わさることで、とても女性的なパウダリー甘さが強くなってくる。

この男性的な要素と女性的な要素をそれぞれ感じながら、最後はココナッツを少し含んだ、とろけるようなパウダリームスクの甘さが、香り全体を官能的に誘いながらドライダウンしていく。

 

カラフルなシトラスの光から、南国感溢れるティアレの輝き、男性的な側面、最後は女性的な側面と、まるで映画のストーリーのように目まぐるしく香りを変化させながら、6時間以上持続する。

 

ところで、ここまで書いた香りの移り変わりは、すべてムエットで確認したもので、実際に肌に乗せると、その香り方は大きく異なる。個人的にはムエット通り香って欲しかったと強く感じてしまう。

 

肌に乗せてみると、スプレーした瞬間のシトラスの飛沫は、一瞬でロサンゼルスの夜に誘うように、輝いている。すぐにティアレが明るくが心を軽やかに、楽しい気持ちに導く。

ところが、肌だとこの部分がとても短い。10分ほどで男らしいアロマティックウッディがシトラスの光を暗く染め、ムスクがティアレの軽さを重く塗りつぶしていく。結果、ライムの苦みやオレンジのベタ甘さが鼻に付く。ここまでが1時間くらい。

そこからアロマティックよりもパウダリーなムスクの甘さが前に出てくる。そのため、ティアレのフローラルが重さや甘さが、どこかケバケバしく感じられる。このムスクの重さとアロマティックの組合せが、バブリーなファッションフレグランスのようで、好みではない。その香りがかなり持続していく。

 

個人的にはコロンというカテゴリーで、夏の夜を表現するのは難しいのではと思っている。コロンのフレッシュな「光」が、ウッディやムスクの「影」に塗りつぶされてしまうように。

それでも、例えばグレープフルーツなどの爽やかなシトラスやグリーンがピーンと一本立っていれば上手い具合にまとまっていくものの、シティ オブ スターズでは5種類のシトラスやティアレが入り組み、どれか一つが立つことなく、影の部分に呑み込まれてしまい、光がくすんで映る。

さらに影の部分が男性にも女性にも転がってしまうため、何となく落ち着かない。私の場合、メンズが強く出た後、一気にケバケバしいパウダリーなフローラルの香りになってしまう。

 

光と影。男と女。それぞれが個性的な香りなだけに、調和することなく、最終的には結ばれなかった。

それはラ・ラ・ランドの結末と重なる。でもラストで、それぞれの道を歩んでいく二人は微笑み合う。あの恋愛は間違っていなかったと。

今の私は、美しく調和する、それぞれが結ばれる香りを求めているのかもしれない。特に夏場は。

 

ちなみに夏の夜のコロンの香り。

私のお気に入りは、オラージュの上からオンザビーチを1プッシュ。さらに爽やかにしたい時はもう1プッシュ。