これが2022年90本目の記事。
2021年6月にブログを立ち上げて以降、アットコスメからの引っ越し記事や、立ち上げ当初の勢いもあり、加えてコロナ禍で人に会えない、売り場に行けないという鬱憤を晴らすかように記事を量産した結果、約7か月間で195本書いた。まさに量をこなす時期でもあり、我ながら凄まじいペースだったと思う。
さすがに2022年は量から質に変化させようと決めた。
2022年は依頼を受けて書いたレビューや、その方が愛してやまない香りを分けていただき書いたレビューが生まれた。
手持ちの香りの場合、自分の好き嫌いや、自分が考える良し悪しだけがセレクトの理由となるため、知らず知らずのうちに守備範囲が狭まってしまう。自分の鼻だけでは見つけることが出来なかった香りと出会い、少しずつレビューの幅も広がっていったのではと感じている。
また、2021年は量をこなすため、計画通りに進めることを重要視した。書き終えたものはどんどんアップしていった。
逆に2022年は4~5本を並行して進めながら、無理矢理完了させずに、そのまま寝かせておいた。ふとした瞬間に言葉のフレーズが思い浮かんだ時に書き足していくことで、香りの解析以上に、その香りのテーマを深堀したり、景色や心情を言葉に置き換えたり、仮説を立てたりと、よりバリエーションが増えたのではと感じている。
長年書いてみて気づいたことは、好きな香りと、気に入っている記事はイコールではないこと。
そんな89本の記事の中で、香りの良し悪しや好き嫌いではなく、記事の内容に満足しているものを5つ選んでみた。
N°22
2022年に百周年を迎えたN°22。
N°22はN°5と同時期にクリエーションされ、ココ・シャネルに最初に選ばれたN°5が1921年に、その翌年にN°22が発売された。1922年から「22」を取って名付けられたとされている。
そして、この節目の年に、改めてN°5とN°22をかぎ比べてみると、どう考えてもN°22が先に創られたのではと思えてくる。
N°22はかなりアルデヒドの強いフローラルの香りで、確かに女性らしくて美しい。でもココ・シャネルが目指していたイメージまで迫ってこなかったのではないだろうか。
「花ベースの香水は女性を神秘的に見せないから嫌。もっと複雑で長続きする、とにかく女性らしい香りを作って(山口路子著『ココ・シャネルの言葉』」とオーダーして誕生した香りこそが、伝説の名香N°5ではないかと。
それでもN°22の美しさをお蔵入りしてしまうのはあまりにももったいないため、1922年に発表されたのではないだろうかと。
そんなことを創造しながら、楽しく書けたレビューである。
ローズトネールとユヌローズの比較
この記事を書いたきっかけは、ある友人との会話で「ユヌローズとローズトネールは別の作品」と言った際に、であればその比較を細かく説明してほしいと、ローズトネールのサンプルを渡されたから。
単純に両者の香りの比較だけではなく、公式HPにある「名前は慎重に選んだ」、「ユヌローズのアーシーでユニークなバラの強さを反映させた」などの意味を読み解いた。さらに両者の立ち位置の違いを加えてみた。
オリジナルと後継品を比較する場合、変わった点を暴くことでその優劣をつける気はさらさらない。
香りを変えざるをえない理由があり、今回はユヌローズを継承したローズトネールという別の作品が生まれたことをメインに書いた。
ローズトネールの誕生により、アーシーでユニークなバラの香りが、より使いやすくなったのではと感じている。
ダークロード
ダークロードは書き上げるまでにもっとも時間がかかった香り。書き始めてから完成するまで半年近くもかかってしまった。
香りそのものの解析はすぐに終わった。でも、ダークロードはキリアンにとって大きな節目の香りでもあり、キリアンらしさが封印された香りでもある。
その辺りをもう少し踏み込んで書いてみたいと考えた。
今では、このダークロードはキリアンというブランドに収まらない、ヘネシー・キリアンという男性がそのまま投影された香りではと感じている。
華々しい表の顔の奥にあるでだろう男の苦悩。そして孤独。この香りに魅せられれば魅せられるほど、これは誰にもおすすめできない香りなのではないかと考えるようになった。
フレグランスアッセンブルで現在261作品のレビューを書いているが、★1作品はこのダークロードのみである。
ハートレス ヘレン
ペンハリガンのポートレートコレクションは書いていて面白い。
せっかくストーリー、キャラクター、相関図まで細かく設定されているのだもの。毎回その設定にしっかり乗っかって、あれこれ想像を膨らませることにしている。
なかでも、このハートレスヘレンの設定が特に好みだ。
私には男性を夢中にさせるだけの魔性がある。愛とは戦って勝ち取るものであり、愛されたものこそが勝者だ。
そんな箱入り娘ヘレンの相手役、テリブルテディのキャラクターと立ち位置がこれまた面白い。
いわゆる恋愛の三角関係に収まりきれない複雑な人間模様。そしてクスッと笑ってしまうようなユーモアセンス。
これからも書き続けていきたいと思いつつ、かのラドクリフが欲しくなる。
ム
ミルコブッフィーニのムとは、無限に広がる「無」のこと。
なぜ「無」をテーマにしたのか。「無」の香りはどんな香りなのか。
香りについては、それぞれのパーツや香りの変化を追っていくことで容易に解析することができる。
難しいのはテーマの理解と、香りとのつながりだ。
そこで、解くためのアプローチとして「有」と比較してみた。そもそもほぼ全てのフレグランスの目的は「有」であり、いわゆる多くのフレグランスとムの香りを比べてみることで、その差異が見えてくる。
そうすることで、ムというフレグランスが伝えたい哲学に少しは迫れたのではと思っている。
書いている時、まるで香りをとおして哲学を探究しているような時間だった。
2023年はどんなフレグランスと出会うのだろうか。
文章とは生き物であり、こうして一年を振り返えるため自分の拙い文章を読み返すと、書き直したくなる。
でも、それはしない。なぜなら、それはその時に全力にその香りと向かい合った証だから。
フレグランスを巡る旅と、香りを文章で表現していく私にとっての修行はまだ続く。