KILIAN
CAN'T STOP LOVING YOU(2023年)
調香師:アルベルト・モリヤス
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HP
ナーコティックからの久しぶりの新作キャント ストップ ラビング ユーは、おさえきれない感情をハニーとオレンジフラワーに託した香り。
トップはフレッシュフローラル。
スプレーした瞬間、いきなりクライマックスが訪れる。
透き通ったネロリがパッと広がると、一瞬で明るくポジティブな気持ちに包まれる。このネロリにオレンジやハニーの軽い甘さがスパイラルするように上昇してくる。
それは、これから始まる恋の予感などすっ飛ばし、まるで意中の相手を目前に「あなたのことが好き」という想いが、おさえきれずに溢れ出てしまっているようなオープニング。
ミドルはフローラル・ハニー。
時間とともに、爽やかなネロリにフローラルの厚みやハニーの甘みがはっきりしてくる。
フローラル部分はオレンジフラワーのコクや、ジャスミンから官能的なアニマリック調をそぎ取ったパラディゾンの香り。ホワイトフローラルなのに、颯爽とした側面がある。
そしてプロヴァンス産ハニーは、ベタっとしたハチミツ甘さではなく、みずみずしくもフワッと軽やかだ。このハニーが官能を抑えたフローラルと調和することで、初々しくも、どこか恥じらいや硬さを感じる。
ベースはスイート・アンバー。
洋酒にも似た深みを増したハニーが、逆にフローラルを包み込んでいくのと呼応して、奥から柔らかなバニラや、ラブダナムのバルサミック調の甘さがゆったりと広がっていく。
このシスタスラブダナムのバニラ甘さとは異なるクセが、鼻をツンツン刺激し、良いアクセントになっている。
でも、アーシーなオークモスがそれら甘い部分を引き締めているため、甘さが拡散していかない。
そんな硬さを残した甘さに包まれながら、アンバーウッディが落ち着いたトーンを与えて、ドライダウンしていく。
トップのフローラルが弾け、その感情を帯びたフローラルハニーが2時間くらい、そこから予熱のような甘さが4〜5時間持続する。
真夏以外であれば、どんな季節でも映える香り。それでももっとも輝くのはやはり春だと思う。軽やかでみずみずしいハニーに包まれたフローラルの香りが、温かさを増していく大気に広がり、春のカラフルな色彩と調和する。
このキャント ストップ ラビング ユーは、キリアンの代表作にしてデビュー作のラブ ドンド ビー シャイ(2007年)前夜、プロローグ的な立ち位置だと思う。
というのもこのキャント ストップ ラビング ユーには、間違いなくラブのマシュマロ甘さが隠されており、鼻先でラブの香りがそっと囁きかけてくる。キリアンの口紅に使用されているラブのとろける甘美な世界がよぎる。
もちろんキャント ストップ ラビング ユーは、まだ始まりさえしていない恋の、おさえられない衝動を描いた香りであり、ラブで繰り広げられる甘美な世界観と比較すると、かなりおとなしい。マシュマロのような甘いキスではなく、歯と歯がぶつかるような硬さやぎこちなさすら感じる。
それでも背後にラブの香りをちらつかすことで、恋の予感がかけぬける。一気にセーフティゾーンを越えてきそうなくらいに、、、。
キャントストップラビングユーは、弾けてしまいそうな感情と、灯し始めた愛の熱が共存した香り。