LOUIS VUITTON
PACIFIC CHILL(2023年)
調香師:ジャック・キャヴァリエ
おすすめ度:★★★★☆
画像:公式HP
すっかり定着してきたルイ・ヴィトンの夏の風物詩パルファン ド コローニュ。2023年に発売されたパシフィックチルは、その7作目にあたる。
そして個人的にはこのパシフィックチルは、毎朝使っても飽きることのない、新たな夏の定番の香りだと感じている。
トップはシトラス・グリーン。
スプレーすると、冷たさをまとったシトラスの風が広がる。
突き刺すようなシトラスではなく、青みがかったセドラ、爽やかなレモンを主旋律に、葉をつぶしたようなミント、バジルのピリッとしたアクセント、そしてコリアンダーの冷涼感。シトラスを中心に、でもこれらのいずれかが飛び出ることなく一体化した、そよ風のようなオープニング。
ほんのり香るみずみずしいフルーティのテイストが夏らしい彩りを添え、パシフィックチルというネーミングにふさわしい。
ミドルはフルーティ・ウォータリー。
トップのシトラスグリーンに包まれた、フルーティのみずみずしい甘さが広がってくる。
夏らしいパッションフルーツを軸に、甘くないカシスが全体をキュッと引き締め、メロン、キューカンバーがフルーティグリーンのトーンを下から押し上げているようなイメージ。
このパシフィックチルのボトルを彷彿させる、淡いグリーン色を形成しているのは、クレジットには記されていないメロンの香りで間違いないと思う。メロンとあっても虫たちが群がるようなあの蜜甘い果実味ではなく、もっと皮に近い部分のみずみずしさ。どちらかないえばアロマティックやフローラルの印象に近い。
そのメロンの輪郭を、シトラスグリーンやパッションフルーツやカシスが上手く隠すことで、グリーン一辺倒にさせず、太陽(オレンジや黄)や海(ブルー)が散りばめられている。これであれば、いわゆる瓜系の香りが嫌いであっても大丈夫なのではと思わせる見事な調香。
ベースはフルーティ・アンバー。
ウォータリーなフルーティグリーンのトーンに、少しずつナチュラルな硬さが備わってくる。ここがキャロッドシードのパートではと感じる。
肌に乗せたほうが、フィグに似た甘さが強めに出るようで、より常夏らしさや、太陽で熱した体温のように演出してくれる。
そして、みずみずしさ、硬さ、甘さが混在した香りを、アンバーが香水らしい奥行を与えてドライダウンしていく。
香りは大きく変化することなく、トップの夏らしい爽やかな印象から、みずみずしい甘さが加わっていくように、5時間くらい持続する。
以前のグリーンボトルのカクタスガーデン。カクタスのはっきりしたグリーンと、このパシフィックチルの淡いグリーンとブルーのグラデーションの対比に、香りの印象もリンクしている。
カクタスはヴィトンのコレクションのなかでも、もっともナチュラル感が強く、香りもくっきりして、グリーンのキャラも強かった。
パシフィックチルではグリーンの香りで使うであろう、ライム、ミント、グリーン、メロンなどを際立だせることなく、またアロマティックやウッディでパワーアップさせていない。大胆にして繊細、性別を問わない透き通るようなグリーンノートだと思う。
夏の朝、ロサンゼルスに吹き込む海風。もちろん、風には色などない。それでも五感を研ぎ澄ませてみると、様々な色が感じられるのではないだろうか。
ジャック・キャバリエは、水のようなメロンをキャンパス地に置くことで、風が持つ様々な要素―爽快さや冷たさ、温かみや甘さ、みずみずしさや硬さ、柔らかさや厚み―をより鮮やかに浮かび上がらせた香りに仕上げている。海や風が持つエネルギーを感じられるように。
パシフィックチル、それは「新たな1日のはじまりを告げる光を想わせる」香り。