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ルイ・ヴィトン:タービュランス

LOUIS VUITTON

TURBULENCE(2016年) ※廃番

調香師:ジャック・キャヴァリエ

おすすめ度:★★★★★


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タービュランスは、2016年、一挙に7作品が発表されたレ・パルファン ルイ・ヴィトンの2番目の作品にあたる。この初期7作品は、ジャック・キャヴァリエがマーケットを意識せずに、その迸る才能を発揮した香りが多く、完成度は図抜けている。

なかでもタービュランスは唯一無二の作品で、今現在でもタービュランスを超える香りは現れていないと思っている。

 

しかしながら今年、初期7作品のなかでも、特に気に入っていたタービュランスとダンラポーが相次いで廃番となってしまった。この2作品ともに、今まで出会ったことのないキャラクターが立っている香りで、キャラが立つ=好き嫌いが分かれるため、ヴィトンのファンに受け入れられなかったかもしれない。初期7作品以降は、ファンの好みに寄り添っているような、嗜好性を押さえつつ、素材を楽しめる香りが増えている事実をみても、あながち外れていないのではと思う。

 

タービュランスとは乱気流の意で、雲の間をすり抜けるような、感覚の心を揺り動かすようなチュベローズの、一目で恋に落ちる衝動からインスパイアされた香りとしている。

 

トップはレザリー・フローラル。

スプレーすると、アイリスのようなレザー調フローラルに、薬草を思わせるザラッとした苦味が鼻を突く。この苦く湿ったレザーノートよりも、マニマリックに近い印象で、うっすらとジャスミンが香ってくるものの、かなりバランスの悪い幕開けだと思う。

 

ミドルはフローラル・レザリー。

レザーのザラっとした苦味を残しつつ、透明感のあるジャスミンが、みずみずしいマグノリアや可愛らしいローズを連れて、その存在感を増してくる。暗いレザーが寄り添うためか、派手さを抑えた静謐なジャスミンの香り。

そこからいよいよ、チュベローズの華やかなフローラルがパッと花開いていく。

ところが、ムエットの場合、チュベローズがパッと開かないのだ。実際に店頭で行われていたデモンストレーションが秀逸で、手の平にスプレーするとジャスミンが香り立ち、その手の平を両手で30秒温めると、チュベローズの艶やかな香りが一気に主張してくる。それくらい、ジャスミンからチュベロースの甘さがパッと拡散していく香りが魅力的。レザーはサンダルウッドに進むことでさらに暗さを増し、その黒いキャンバスをバックに、真っ白に輝くチュベローズはとてもクールだ。

さらに、ムエットの場合、このレザーやウッディが優位なのに対し、実際に肌に合わせると、パワーバランスが逆転して、ジャスミンのコクや甘さ、官能的なチュベローズの輝きが際立つ。そして濃厚なジャスミンやチュベローズの華やかな甘さを、ウッディがキリッと引き締めたような、素晴らしい香り。

 

ベースはウッディ・ムスキー。

レザーの苦みを纏ったジャスミンやチュベローズの余韻と、暗いサンダルウッドの香り。ジャスミンとサンダルウッドの組み合わせは、官能的な香りに進むケースが多い。でもタービュランスのジャスミンは、アニマリック感が抑えられ、さらにムスクのやわらかさが、そのいやらしさをうまく躱しながらドライダウンしていく。

 

ミドルの華やかでスタイリッシュなジャスミンチュベローズが2時間くらい香り、ベースはほぼ拡散せずに、フローラルの残香とウッディムスクが4-5時間持続する。

 

レザーで引き締めているとはいえ、魅惑的なフローラルに包まれるため、秋を中心に、春や冬に使うことが多い。

 

タービュランスは、かつてないハンサムなチュベローズの香り。

そしてチュベローズの脇を、ヴィトン独自製法のジャスミンとレザーが固めた、一目で恋に落ちる香り。

 

スプレーした瞬間の苦味のあるレザーや、ミドル以降の暗いウッディのクセは、好き嫌いが分かれてしまうと思う。

私も最初は、レザーのアクセントが、チュベローズやジャスミンのナチュラル感を高めているが、半面、嗜好性を上げる香りをそぎ落としているため、素材の良さは伝わるがクリエーションが甘い、つまり作り込みが粗いと評価していた。

ところが、肌に乗せてみると、トップの苦い香り立ちから一転、ミドル以降は今まで出会ったことのないキリッと引き締まったジャスミン・チュベローズは、まるで雲の間をすり抜けるようなスリリングな感覚を味わうことができる。

 

表参道店に行くと、ジャック・キャヴァリエに「グラースのジャスミンがあれば、他の何もいらない」とまで言わしめた、CO2抽出のグラース産ジャスミンそのものをかぐことができる。ジャスミンらしい優雅なフローラルと、スパイシー、マニマリックを複雑な香りなのにもかかわらず、雑味がなく透き通るような美しさ。この至宝ともいえるジャスミンを全面に出すのではなく、チュベローズやレザーの脇に置くことに、ジャック・キャヴァリエの天才性を垣間見る。

 

そう、タービュランスは天才を超えた、鬼才のジャスミンの音色。そして評価される前にその姿を消した、孤高の頂。