フレグランスアッセンブル

フレグランスの香りの変化を解析するサイト

ピュアディスタンス:アエノータス

PUREDISTANCE

AENOTUS(2019年)

調香師:アントワーヌ・リー

おすすめ度:★★★☆☆

f:id:captain_dora:20211202135337j:plain

画像:公式HPより

 

アエノータスはピュアディスタンスの9作目の作品にあたる。

ピュアディスタンスの創業者ヤン・エワウト・フォスのシグニチャーセントとして制作に3年を費やし、パリのアントワーヌ・リーが手掛けたとのこと。

 

爽快で官能的な香りは出過ぎることなく、付けた人の肌の匂いとしてへと変化していく香り。

 

トップはシトラス。

スプレーすると、フレッシュなレモンや爽やかな甘さのオレンジのすぐ後から、かなりビターなユズがパワフルに香り、シトラスミックスにグリーンやウッディの迫力を添える。奥から乾いたウッディノートがほんのり香ることで、ビターな深みのあるとても男らしいシトラスのオープニング。

 

ミドルはグリーン・シプレ。

これもまたグリーンウッディなプチグレンがビターに香ることで、シトラスの爽快感から酸味への移ろいを、力技で仕立て上げているような印象。とにかくプチグレンが濃い。

合わせてミントや、甘さを抑えたカシスのアロマティックな甘さ、さらにはオークモスやパチョリ、さらにサンダルウッドのシプレウッディが、全体に男らしいキレや複雑な深みを与えている。

 

ベースはウッディ・ムスキー。

はっきりとグリーンを効かせたシプレウッディを、カシュメランやムスクが柔らかいセクシーな印象で整えた香りが延々と持続する。

 

アエノータスの賦香率は何と48%で、私が持っているフレグランスのなかでも間違いなく最も濃い香りだと思う。その香料の濃さから持続力も桁外れで、余裕で一日中持続する。逆に夜につけると、ミドル以降の香りを持て余してしまうほどに。

 

このアエノータスは、フォス氏が自分自身のための香りを作ろうと考え、アントワーヌ・リーに対して、テニスを終えた後に付けたくなるようなフレッシュなシトラスの香り。でも、シトラスの香りがすぐに消えることなく、そのまま肌になじんでずっと残るような香りを作ってほしいとオーダーしたとのこと。

当初、アントワーヌ・リーは、そんな香りは作れるわけないと答えたらしいが、3年という時間をかけることで、アエノータスは誕生した。

そして、実際にアエノータスの香りに触れてみると、調香師が持てる情熱とエネルギーを注ぎこみ、さらには力技と驚異的な賦香率を駆使することで、フォス氏の想いに応えたことが伝わってくる。

 

この香りの評価の分かれ目は、とことん煮詰めたシトラスをビターなシトラスと感じるか、苦く渋いグリーンやウッディと感じるかだと思う。あのマルのビガラードコンサントレのビターなシトラスがおとなしいと感じられるほど、煮詰まっているから。

もし、シトラスだと感じられれば、キリッとビターなシトラス・ウッディに、柔らかいシプレムスクを合わせた、フレッシュなシトラスがまるで肌に溶け込むように肌に残ってずっと続く香りとして映るのではと思う。

逆に、シトラスではなくグリーンやウッディと感じるのであれば、ただただ苦いだけの香りとなってしまうかもしれない。

さすがはピュアディスタンス、今まで出会ったことのない個性あふれる香りだと思う。

 

ピュアディスタンスは、流行を追わず、タイムレスな美しいマスター・パフューム(名香)をつくるため、持てる情熱とエネルギーすべてを注いでいる。そのため、流行と逆行するようなクラシカルな香りを多く揃えている。

逆にアエノータスは異色の存在で、創業者の個性がギュッと濃縮された香り。他の香りに代えがたい、この強烈な個性に魅せられてしまうと、もう普通のシトラスに戻れなくなるかもしれない。

知らず知らずのうちにあなたを魅惑の罠におとす、洗練されたこの香りは、誰にでも自分をひけらかすような、そんな軽い存在ではありません(公式HPより)。