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ゲラン:サンタル パオ ロッサ

GUERLAIN

SANTAL PAO ROSA(2021年)

調香師:デルフィーヌ・ジェルク

おすすめ度:★★☆☆☆

 

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画像:公式HPより

 

2021年9月に一新されたラール エ ラ マティエール。
そのタイミングで発売された新作がこのサンタルパオロッサとローズシェリーで、表現こそ異なるがそれそれローズが使われている。
パオ ロッサとは、1877年に2代目調香師エメ・ゲランが創り出したフレグランスの名前であり、またローズウッドの別名でもあり、ウッディとローズの運命的な出会いがあったとしている。
 
トップはスパイシー・フルーティ。
まず、カルダモンの青いスパイシーの鋭い香りが鼻を突いてくる。少し遅れて、フィグがカルダモンと調和することで、青く硬質なクリーミーな甘さに、うっすらと樹々の香ばしさが漂っているようなオープニング。
 
ミドルはウッディ・スパイシー。
鼻先はスパイシーなカルダモンを香らせながら、カルダモンのスモーキー部分と呼応するようにウードの暗いウッディが顔を出してくる。
そして、スパイシーなローズがウッディスパイシーに赤い彩りを添えるようにほのかに香る。さらに奥からクリーミーなサンダルウッドの姿がはっきりと感じ取れる。
 
ベースがウッディ・オリエンタル。
ところが、このスパイシーなローズは存在感を示すことなく、ヘーゼルナッツを加えた香ばしいウードと、ミルラの甘さに包まれたサンダルウッドに取って代わられる。
このナッツで焦がしたようなウードと、ミルラの甘さを添えたサンダルウッドが、少しずつ距離を縮めていきながら、最後はどこかアニマリックな雰囲気を含んだサンダルウッドの香りとなり、そのままドライダウンしていく。
 
トップ・ミドル・ベースというよりも、前半のスパイシーを効かせたウッディと、後半のウッディオリエンタルに分けられるような、香りの変化の少ないシンプルな構成だと思う。
ベースはウッディオリエンタルであるものの、ウッディそのものは暗くなく、スパイシーもしっかり主張するため、秋から初春にかけて、昼夜関係なく似合う香りではと感じる。
 
正直、新生ラール エ ラ マティエールの先陣を切るフレグランスとしては、地味で物足りなく映ってしまう。
やはりこのローズパオロッサは、サンダルウッドの素材を堪能するためのフレグランスだと考えるべきかもしれない。
 
公式HPによると、サンタルパオロッサには主にオーストラリア産のサンダルウッドが使用されており、クリーミーなウッディの香りが特徴的で、このような贅沢な香り立ちになるまで、15年の歳月を要するとのこと。ゲルリナーデ(ベルガモット、ローズ、ジャスミン、トンカビーン、アイリス、バニラ)以外でここまで素材が説明されているのは珍しく、このサンダルウッドに自信があるのではと思う。
 
確かにサンタルパオロッサの主役サンダルウッドは、樹々の香ばしさ、スモーキーな深み、クリーミーな甘さ、アニマリックな深みなど、様々な表情を魅せてくれる。肌に乗せた方が、その表情の変化がよりはっきりする。
おそらくこのサンラルウッド素材が持つ様々な表情を、カルダモン、フィグ、ヘーゼルナッツ、ウード、ミルラを添えることで引き出したのではと思う。
 
そんな自然が持つ素晴らしい香りにローズを加えることで、芸術へ昇華させようとした。
「サンダルウッドは、色がローズピンクになることがあります。サンタル パオロッサは、ウッディな力強さとフローラルな優しさがあります。まるで神聖な愛のようです」デルフィーヌ・ジェルク(公式HPより)

 

 
個人的に残念だったのは、ローズパオロッサの香りを、ジュゼッペ・ペノーネの木の彫刻に例えたことだ。インスピレーションを受けて、新たな芸術を創ったではなくて、例えている。
 
ラール エ ラ マティエールの真髄が、鮮やかに素材を芸術へ昇華させることであるなら、なぜ香りそのものを芸術として昇華させるのではなく、彫刻などに例えるのだろうか?
 
サンタルパオロッサは、過去のゲラン作品の名を借りた、素材重視の香り。
例えば、ゲランだからこそ到達できた、ネロリウートルノワローズバルバルアンジェリークノワールドゥーブルヴァニーユなど、アートとマテリアルが融合した傑作揃いのラール エ ラ マティエールの作品群の中で見劣りすると感じてしまうのは仕方がないと思う。
パオロッサを語るのならば、もっと別のアプローチがあっただろうし、新生ゲランを切り拓くのであれば、何もパオロッサという名前にしなくてもよかったのにと。