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キリアン:プレイング ウィズ ザ デビル

KILIAN

PLAYING WITH THE DEVIL(2013年)

調香師:カリス・ベッカー

おすすめ度:★★★★☆

 

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画像:公式HPより

 

ここ数年、個人的にフルーティな香りへの熱が加速してきている。年齢を重ねるごとに清潔な香りだけでなく、華やかさ、深み、重厚感、暗さ、そして濃厚な甘さなど、選ぶ香りの幅が広がり、またそういう香りも自然に纏えるようになってきたと感じている。

それでも、年々、フルーティな香りに、なかでもピーチの香りが好きになっていくのはなぜだろうか。そして、それはたぶん、若々しさを求めているような気がしている。

 

少し前に「デオコおじさん」なる言葉が流行った。ロート製薬の研究によると、若い女性からはラクトンが多く放たれるが、年齢と共に減少していくとのこと。「DEOCO」は30代女性に対して、減少していくラクトンを補うために開発された製品で、若い女性の香りに憧れ、このDEOCOを使用するおじさんたちは「デオコおじさん」と呼ばれた。

 

そんなラクトンの香りの代表格がピーチ、そしてココナッツだ。ココナッツのコクのある甘さは常夏っぽく非日常的で、普段使いが難しい香り。逆にピーチはキリアンを筆頭に名作が多い。おそらく、近年のピーチ熱の理由は、若々しさへの憧れと、キリアンのフルーティ系を買うための口実だったかもしれない。

 

キリアンのプレイング ウィズ ザ デビルは、スパイシーやフローラルが黒子に徹することで、終始フレッシュなピーチが楽しめるような、潔いくらいのフルーティ・フルーティな香り。

 

トップはフルーティ。

スプレーすると、とても爽やかなブラッドオレンジの甘さと、果実感溢れるピーチの香り。この甘いピーチの果実感に、ライチの滴るようなみずみずしさを加え、さらにカシスグリーンでコーティングすることで、青みがかった硬さやジューシーな甘みが感じられる、素晴らしいピーチが堪能できるようなオープニング。

 

ミドルはフルーティ・フローラル。

ピーチが完熟することで甘さが増していくていくものの、ピメントの辛みやブラックペッパーに苦みで、フレッシュなピーチの姿がキープされている。そこに可愛らしいピンクローズや、官能的なオレンジフラワーやジャスミンが、ピーチにピンクイメージの後押しをしている。

さらにピーチの完熟が進むことで、マンゴーのようなフルーティ感になるが、鼻先のスパイシーで爽やかさを維持し、奥からバニラの甘さが、ピーチのピンクを少しずつ黄色く染めていく。

 

ベースはバルサミック・ウッディ。

そこから、ジャスミンの酸味やオレンジフラワーのグリーンが前に出て、さらにはバニラの甘さやサンダルウッドの深みで、完熟しきらない黄桃の雰囲気を残していく。

最後はセダーウッドの暗さ、ベンゾインのバルサミックな甘さをパチョリが補強しすることで、フルーティの残像をうっすら残してドライダウンしていく。

 

明るく、色彩鮮やかな香りでも、どんな季節でも、カラフルに彩ってくれる。フルーティの甘さに溺れていかないため夏でも似合う香りだと思う。

 

持続時間は4~5時間程度。最初の10分の弾けるようなフルーティ感は、明らかに浮いてしまうものの、フローラルが出てくると少しずつ肌に馴染んでいく。そんなフルーティフローラルが2時間くらいで、ベースはウッディやグリーンが立つため、甘ったるくならず、最後までうっすらと香るフルーティの余韻を楽しむことができる。

 

最近のピーチの代表作といえば、やはりトムフォードビターピーチで、このプレイング ウィズ ザ デビルとビターピーチは対局の香りだと思う。もし、ビターピーチのあのみずみずしいトップが好きならば、このデビルは絶対に試す価値がある香りだと思う。

熟しきった果実の味わいこそがエロティックと考えるトムフォードと、いつまでも滴るようなみずみずしい果実を追い求めたキリアン。同じピーチの香りでも、表現方法が真逆で、両者の好みの違いがはっきり分かれる作品ではないだろうか。

 

そして、キリアンでピーチの香りといえば、フォービドゥンゲームズやフラワー オブ イモータリティが思い浮かぶ(3作品ともカリス・ベッカーの作品で恐るべきベッカー女史)。フォービドゥンゲームズは甘さに溺れてしまった禁断の果実を描き、フラワー オブ イモータリティはパウダリーに溶け込んだ女性らしいピーチを表現している。いずれも素晴らしいピーチが堪能できる香りだと思う。

 

元々、プレイング ウィズ ザ デビルはエデンの園からインスパイアされた「イン ザ ガーデン オブ グッド アンド イーブル(善悪の庭)」コレクションだった。

エデンの園で善悪の樹の実を食べたイブ(フォービドゥン ゲームズ)は、ついに禁断の扉を開けて新しい世界へその一歩を踏み出す(グッドガール ゴーンバット)。そして悪魔との遊びに浸っていく(プレイング ウィズ ザ デビル)。

 

ところが、キリアンのストーリーはガラッと変わり、現在ではこのプレイング ウィズ ザ デビルは、ザ セラーズとして、ブラックファントムイントキシケイテッドなどと同じコレクションになっている。以前のあのコレクションの白ボトルや蛇があしらわれたケースの方が、この香りの世界観が体現できていただけに、とても残念に思う。

 

プレイング ウィズ ザ デビルのみずみずしい天使のような香りは、悪魔のように囁いてくる。そして、若々しいピーチの甘さにそそのかされる私は、デオコおじさんならぬ、デビルおじさん、、、いやいやキャプテンD(デビル)、、、(笑)。